小林家のSOS!?
青菜(あおな)におまかせください
ある日の午後、リビングを掃除している青菜のもとにため息をつきながら佳恵がやってきた。
「なんだか体が重だるくて…。ちょっとソファで休憩させて」
佳恵は最近、新規プロジェクトを任され張り切っている。やりがいを感じ、意気込む姿勢とは裏腹に、その動きには以前のような軽さがない。
「お仕事忙しそうですね。無理はなさらず」
「ありがと。忙しいけど出勤してた頃に比べれば、移動時間も外回りも減ったし楽なんだけどね」
その言葉を聞いた青菜は考え込むようにアゴに手を当て、一言つぶやいた。
「これは、まずいですね」
その表情に、佳恵はドキリとした。体が重く感じる原因に、自分でも気づいていたからだ。
「おかげさまで太ったのよ…。お気に入りのスキニーパンツを履こうと思ってもお腹や太ももあたりがパッツパツなの。ちょっと動かなくなっただけなのに、若い頃と違ってすぐ体に出ちゃうんだもん」
「長時間座りっぱなしなうえに、体を動かさないのはよくないですね。体重が増えるだけでなく、筋肉が落ちてしまって疲れやすさの原因にもなるんです」
「え!太るだけじゃなくて筋肉が減っちゃうの…。どど、ど、どうしよう」
「大丈夫。気づいたときが変わりどきです」
おうちで
「ながらエクササイズ」
「でも、運動する時間はあんまりないし、ジムに通い続ける自信もないし。わかんない、どうしたらいいの!教えてッ、青菜さん!」
「たしかに、入会費だけ払って通わなくなるのはいただけませんね」
佳恵はストイックな運動が長続きするタイプではない。その性格を理解している青菜は、佳恵にぴったりの解決法を思いつくと、笑みを浮かべた。
「それでしたら“ながらエクササイズ“はいかがでしょう」
「ながらエクササイズ?」
「そうです。ふだんの生活にエクササイズを取り入れるんです。簡単にできるものがあるので、さっそくわたくしの真似をしてみてください」
「え、今からやるの?どうせ“ながら”なら、リラックスタイムにできると嬉しいんだけどなあ。例えば、テレビの前でできるやつとか」
「そうくると思いました。佳恵さんはお笑い番組を観るのが好きですしね。楽しくエクササイズできれば一石二鳥かと思います」
「さすが青菜さん!」
STEP1
座った姿勢で肘を後ろにつき、
腰を丸めた状態で脚をしっかりと閉じる
STEP3
下腹部を意識しながら、脚を閉じたまま、前に出していた脚を胸に引き寄せる
「一つひとつの動きをなるべくゆっくり行うことがポイントです。10回を1セットにして、まずは1日3セットを目標にしてください」
「3セットね、できるかしら」
「決まった回数を続けてやることが大切なんです。慣れてくるまでが勝負ですよ」
「青菜さんが言うなら…、そうね、頑張ってみる」
「1、2、3。いいですよ、その調子。お腹に意識を向けてください。脚を動かすたびに変化を感じませんか?」
「お腹の奥がプルプルしてる!」
「素晴らしいですね。お腹の筋肉(腹直筋、腸腰筋)が伸び縮みすることで、下腹部に刺激が入り、ぽっこりが改善されるんです。ひとつの目安ですが、プルプルしてきたら効いてきた証拠ですよ」
「簡単だし、テレビを観ながらできるのも最高だわ。ねえ青菜さん、ついでだから太ももに効きそうなエクササイズも教えてくれない?」
「承知しました。次は、歯磨きと組み合わせたエクササイズにチャレンジしましょう」
そう言うと青菜は、洗面所へと向かった。後を追う佳恵は、少しでもこの太ももを引き締めたいのよ〜、と切実な声をあげている。
「では、歯ブラシを持って、わたくしの真似をしてみてください」
STEP1
脚を肩幅より広めに開き、つま先を外側に向ける。背中が丸まらないようにお尻を真下に降ろす。
STEP2
太ももと床が平行になるところまで3秒かけて降ろし、3秒かけて上がる。
「ここでのポイントは姿勢です。背中を丸めないように注意しながら、3秒かけてゆっくりと腰を落とし、3秒かけてゆっくりと上げてください」
「えっと、まず脚を開いて」
「そうです。膝とつま先の向きを、外向きにまっすぐ揃えてください。大事なのは、膝がつま先より前に出ないことです」
「どう?こんな感じ?」
「バッチリです。歯磨きのときにこれを続ければ、太ももやお尻がスッキリしてくるはずですよ」
教わったばかりのスクワットを鏡の前で続けている佳恵を横目に、洗面所を後にした青菜は、静かにリビングの掃除へと戻った。
“ながら”効果は突然に!?
(みんなに内緒で続けている“ながらエクササイズ”も今日で2週間くらいよね。毎日欠かさずやってること、青菜さんに自慢しなくちゃ)
仕事が一段落した佳恵はソファに座り、そんなことを考えながらコーヒーを飲んでいる。ふいに背中に視線を感じ、慌てて振り向くと、いつの間にかリビングに入ってきていた春香が、佳恵をじっと見ていた。
「もー、春香ってば、ただいまくらい言いなさいよ」
「あ、ゴメン。でも、ママって最近きれいになったよね。もしかして、ちょっと痩せた?」
「ほんと!? たしかにお腹から太ももあたりが、少し引き締まってきた感じがしてたけど…。“ながらエクササイズ”って思ったより効果あるかも!」
「ちょっと、 興奮してて何言ってるかわかんないよ、ママ」
「んーん。なんでもないわ♪」
「えー、なにそれ」
リビングにやってきた青菜を見つけた春香はすっと近寄ると、ヒソヒソ話をはじめた。
「ママ、ちょっと痩せてきれいになったよね。何か知ってるんじゃない? 青菜さんのおかげでしょ」
「たのしそうね。なんの話してるの? ママも混ぜてよ」
「なんでもなーい、ナイショ!」
青菜は微笑みながら佳恵からマグカップを受け取ると、キッチンへと向かった。佳恵は娘のつれない言葉を気にする間もなく、かかってきた仕事の電話の対応に追われている。
「あ~あ、ママはいいなぁ。わたしもスッキリしたい」
お腹をさわりながらリビングを立ち去る春香の姿を、青菜は決して見逃さなかった。
次回につづく...