〜第3話〜「食べない」が変わる?アレンジレシピと声かけ術

家政夫の青菜(あおな)です。小林家でお食事を準備するときは、「食卓が笑顔であふれますように」と、心を込めて料理をお作りしています。長女の春香(はるか)さんやワタル坊ちゃんの「アレまた食べたい!」のリクエストを聞けることが、ささやかな喜びです。ご家族のみなさまに、なんでもおいしく食べていただきたいと願っていますが、お母様の佳恵(よしえ)さんは、このところあることに頭を悩ませているご様子で…

「食べない」が変わる?アレンジレシピと声かけ術

「ごちそうさまでした〜!」
「おいしかったー!」

夕食を食べ終えた春香とワタルは、競うようにお皿を下げに立ち上がった。

「ワタル、ちょっと待ちなさい!全部食べたの!?」

「もうお腹いっぱいだもん!」

ガチャガチャとお皿をシンクに置くなり、急ぎ足でリビングへ向かった。そろそろ、お気に入りのクイズ番組が始まる時間だ。

弾むような二人の笑い声が隣のリビングから聞こえる中、浮かない表情の佳恵がキッチンにぽつんと立っていた。

「パパ…、ワタルのお皿、ちょっと見て」

食卓から腰を上げ、お皿をのぞいた父の茂(しげる)もまゆをひそめた。

「また野菜だけ残してるね」

「つい先日、お友達の誕生日会にお呼ばれしたときも、ワタルってばお野菜をほとんど残しちゃって。せっかく作ってくれたのに、申し訳なくって」

野菜を嫌がるワタル

「小学校にも通い始めたことだし、「嫌いだから食べない」なんていつまでも言ってられないよなぁ」

腕組みをしながら黙考した茂が、妙案を思いついたとばかりに顔を上げる。

「そうだ、青菜さんなら食事や栄養についても詳しそうだし、何かいいアドバイスをもらえるかもしれないよ。ママ、明日ちょっと聞いてみたらどう?」

佳恵も同じ考えだったのか、茂の言葉に迷うことなくうなずき返した。

−翌日

「たしかに、もう小学校に上がられましたしね」

ワタルは小学一年生。友達もたくさんできて、毎日、楽しそうに通っている。そんな学校生活がずっとつづいてほしいと願うからこそ、給食をつらい時間にはしたくないと佳恵も青菜も心配に思っていた。

「じつはね…、連絡帳にも書かれていたんだけど、ワタルってば給食に出る野菜をほとんど食べていないみたいなの」

「給食の野菜ですか」

「そう。いっつも給食が終わる時間ギリギリまでお野菜とにらめっこしているんですって…」

ワタルの野菜嫌いはいまに始まったわけではない。幼稚園のときはお弁当に好きなおかずを入れていたので、かろうじて残さず食べることができていた。そんなワタルを気にしつつも、「そのうち食べられるようになるだろうから、大丈夫でしょ」と佳恵も茂も難しくは考えてこなかった。青菜もそんな二人の考えを尊重して、口を出すことはしてこなかった。

しかし、小学校は事情が違う。決められたメニューをみんなと一緒に食べるため、ワタルだけが「特別」ではないし、栄養バランスのよい給食はできるだけ食べてほしい。

「残すのはよくないけど、それを気にしすぎて学校嫌いになるのはもっと嫌だわ!」

「その通りです。それは、まずいですね」

好き嫌いを減らすポイントは?

「佳恵さん、これを機にワタル坊ちゃんの偏食にとことん向き合いましょう」

「ありがとう、青菜さん!」

「佳恵さん、さっそくですがお子様の好き嫌いを減らすポイントをご存知ですか?」

「ポイント?」

「小さなお子様は、好きなもの、食べられそうなもの、苦手なものの順番に食べていきます。そのため、好きなものがたくさん食卓に並んでいると、それだけでお腹がいっぱいになって、苦手なものにたどり着かなくなってしまいます」

「たしかに!お腹いっぱいって言いながら食卓を離れることが多いかも」

「理想の食卓は、好き:普通:嫌いの比率を3:5:2くらいと言われています」

「じゃあ、ワタルの場合は、苦手な野菜料理を全体の20%くらいにすればいいのね」

「そうです。好きな食べ物だけでお腹が満たされないように、食卓に並ぶメニューの割合を調整しましょう」

「わかったわ!」

「それから、調理方法や味付けを変えたりして、嫌いな野菜をアレンジすることも大事なんですよ」

「なるほど!今度、こっそり野菜を刻んでハンバーグに混ぜてみようかしら。青菜さん、一緒に作ってもらえる?」

青菜はその言葉を聞くと、少し顔を引き締めて佳恵に向き合った。

「佳恵さん、じつはその方法、お子様によってはおすすめできないこともあるんです」

佳恵を止める青菜

「え!好きなものに嫌いなものを忍ばせるって、よく聞かない?」

「たしかにそうなのですが、好きな食べ物だと思って口にしたのに、嫌いなものが入っていたら、どう思うでしょう?食に対して警戒心が芽生えてしまうと思いませんか?お子様によっては、好きなものが食べられなくなることもあるそうです」

「なるほどね」

「だから、もしも嫌いな野菜を刻んで入れるときは、あらかじめ“ここにかくれんぼしてるよ”などと、正直に伝えてあげるといいですよ」

「そういうことね、わかったわ。じゃあ、アレンジする場合は?おすすめメニューとかないかしら?」

「おすすめメニューはお好み焼きやチヂミです。野菜が入っていたとしても視覚的に「食べられそう」と思ってもらいやすく、これにすると無理なく食べられたという子は多いです。この時も『○○という野菜が入っているよ』と事前にコミュニケーションをとりながら食べ進められると良いですね」

おすすめメニュー

お好み焼き・チヂミ

野菜が入ったお好み焼きとチヂミ

あらかじめ 「○○という野菜が入っているよ」 と教えてあげることがポイントです

「それと、ワタル坊ちゃんは揚げ物が好きですよね」

「大好物よ〜」

「たとえば、スティック状にカットした野菜をカリッと揚げて、大好きなポテトフライやエビフライのような見た目にするんです。そのひと手間だけで、食べてくれる可能性がぐっと高まるんですよ」

野菜のアレンジ例

ポテトフライ風ピーマンスティック
/ エビフライ風にんじんスティック

野菜を細く切って揚げるアレンジ

にんじんやピーマンはなるべく細く切って、食べやすくしてあげることがポイントです

「カリカリ食感って、ワタル好きなのよね。なんだか、わたしも食べたくなってきちゃった♪」

「実は、そこも大事なんです。大人がおいしそうに食べているものには、お子様も興味を持ちやすいんです」

「たしかに!パパがおいしいって食べているとき、『ボクにもちょうだい』ってせがんだりしているわ」

「あと大切なのは、食事のときの声がけが大事です。ワタル坊ちゃんに“食べなさい”のプレッシャーを与えてはいませんか?」

「あ、『頑張って!』とか『残さず食べなさいよ!』って言ったことはあるわ」

「そんなときは『無理に食べなくても大丈夫』『ママも子どものころは好き嫌いが多かったのよ』、という言葉でワタル坊ちゃんを少し楽にさせてあげてください」

「そうね、気持ちに余裕を持たせてあげなきゃね。いろいろありがとう、青菜さんッ」

−ある日の日曜日

休日、小林家では必ず4人揃って食事をする。佳恵は、青菜から教わった料理に腕を振るっていた。

「ママ、これサクサクしてておいしいね!」

ワタルの最近のお気に入りは、にんじんスティックのフライだ。

「ちょっと、パパの分もとっといてくれよ」

みんなで積極的に野菜料理を口にすることで、ワタルにも徐々に野菜に興味を持ち始め、調理方法によっては食べられるものが増えてきた。にんじんスティックはその一つだ。

「青菜さんの教えてくれる料理ってほんとうにおいしいわ!ママ、尊敬しちゃう」

「ほんとだね!でもボクはね、ママの料理がいちばん好きだよ」

にんじんをほおばるワタルの姿を見て、三人は微笑んだ。

「パパの分も残しておいてって!おつまみにしたいんだから」

「お腹出てきたんだから、ちょっとは控えたら?」

春香の厳しい一言が飛んだ。

「え、そんなに太った?」

と言いつつも、茂は気にするそぶりも見せずに食べつづける。「おいしいものはおいしいうちに、好きなものは満足いくまで」これが、茂流の嗜みなのだ。

「ぷふぁ〜、今日もお腹いっぱい!ごちそうさまでした!」

茂はお腹をさすりながら、ソファーに移動したとたん、どかっと横になった。

(春香の言う通り、ちょっとお腹が出てきたかな?ママと一緒にダイエットでも始めてみようか…)

そんな考えが茂の頭によぎったのもつかの間、子どもたちの

「パパ〜!食後のアイスどれにするー?」

の声に、ダイエットの5文字は一瞬で茂の中から消え去ったのだった。

次回につづく...

監修者

山口健太

一般社団法人日本会食恐怖症克服支援協会代表理事
食べない子専門の食育カウンセラーとして活動。カウンセリングや講演活動を通して、子どもの食に悩む父母、保育園学校、小児科医等に伝えるようになる。著書に『食べない子が変わる魔法の言葉』(辰巳出版)、『会食恐怖症が治るノート』(星和書店)など。

イラストレーション

ボブa.k.aえんちゃん